【第529回】石田聖也(演劇ユニットそめごころ)

『真っ暗な道を歩く』

 初めて戯曲を読んだ18歳の春。大学進学で福岡に移り住んで来た。昼は家にこもってダラダラ、夜には真っ暗になった街をブラついてみたりしてみたけれど、次第に見知らぬ土地での生活が不安でたまらなくなった。このままではマズイと駈け込むように演劇部に入った。演劇に興味があったわけでも、俳優になりたかったわけでもなかった。初めての公演は演劇部の先輩が演出する本谷有希子さんの「遍路」という作品だった。戯曲が配られ、グループに分かれて本読みが始まった。これまで国語の授業で教科書の小説を声に出して読む時でさえ大きな声を出したことがなかった。そんな自意識の高さを持つ僕に、いきなり台詞を声に出して読むということは、かなりハードルの高いことだった。その時同じグループだった高校でも演劇部だった同期の男の子の読みにかなりビビったことを今でも良く覚えている。あぁ自分は完全に入る部活を間違えてしまった…。これから僕の大学生活はどうなっていくのだろう。と目の前が真っ暗になっていった。けれど、小説でもエッセイでもない、声に出して読むこの得体の知れない戯曲という未知の読み物に気がつけば惹かれていった。

あれから9年。僕はあの日出会った仲間と旗揚げした劇団で演劇を続けている。戯曲を読み、戯曲を書き、演出したりしている。けれども未だに戯曲とはなんなのかわからないでいる。登場人物の意識の流れ、そこで鳴っている音、光、どんな空間・劇場でやるのか、舞台セット、キャスティング、作品を誰に見せたいか、作家自身のこと、書かれた時代、今の時代、テーマ。とにかく色々と考えを巡らせてみる。それでも、やっぱり戯曲のことを僕はちっとも理解できていないような気がしてならなくて。何だか憂鬱。あぁ自分は完全に進む道を間違えたのかもしれない。そんなことをグルグル悩みながら、真っ暗になった目の前の道をこれからも歩いていくんでしょう。

2020.11.14


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