【第551回】永山智行(劇団こふく劇場代表 劇作家、演出家)

予感

 「小ささ」について考えている。いまのところそれについての答えはない。ただ予感だけがある。

そういえばいつの間にか、不特定多数へ乱暴に情報を流すことが当たり前になっていた気がする。それはもちろん、インターネットなるものがわたしたちの日常になっていたからなのだが、30年前、劇団を旗揚げしたての頃、どうやって観客に劇場へ足を運んでもらっていたかといえば、知り合いにチラシを渡す、お店にチラシを置いてもらう、チラシを郵送する、新聞などにとりあげてもらうなどしかなかった。「不特定多数」ではなく、「特定」の「少数」との出会いをこつこつと続けることで、少なくとも小さなわたしたちの劇団は、観客との劇場での時間を重ねてきた。

そして、2020年の春。「わたしたちがやるから、みんな観に来てください」と、不特定多数へ無邪気に言えるような時代は、もう失われてしまった気がする。劇場は、これからはきっと「祈り」を共有するという役割をより強めていくのではないかと思う。劇場で笑いながら、涙を流しながら、共に皆が、健やかで穏やかであることを祈る。劇場が古から果たしてきたそんな役割に立ち戻るために、わたしたちはやはり、「小ささ」からまたはじめなければならない気がする。

「小ささ」について考えている。いまのところそれについての答えはない。ただ予感だけがある。

2020.04.23



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