【第731回】舞台『モルヒネ』対談(前編)

12月12日(木)~14日(土)、ぽんプラザホールで開催上演される舞台『モルヒネ』。

第10回九州戯曲賞大賞受賞から約2年。

今回初上演するにあたって、企画や創作についてのあれこれを脚本家の中島栄子さん演出家の木村佳南子さん俳優の富田文子さんの3人に語っていただきました。

まずは前編、『企画の始まりから創作のあれこれについて』。内容盛りだくさんです。

早速どうぞ~!!

『いい作品を書かれているのに上演されていないのは勿体ないな、という思いが以前からあって。(富田)』


◆この企画はどういう流れでスタートしたんでしょう?

富田文子氏(以下、富田) たまたま中島さんと私でお茶をする機会があって。そのタイミングで、何か今の段階でなにか企画は進行してるんですか?って伺ったら、今のところ何も進行してないってことだったから。あれ?じゃあやりたくない?やりたいっす!じゃあなんか考えます?みたいなところから始まったんですよね。


中島栄子氏(以下、中島) 以前からやりたいと思ってはいたんですけど、この作品は明らかにうちのアクションチームに向いている作品ではないからJ-ONEではやれないな、と。そうなるともうどこから手をつけていいのかわからないな、、と思っていました。


◆なるほど。そのタイミングで富田さんとお茶をして、動き出したんですね。中島さんが『モルヒネ』を上演したいと思ったきっかけは何かあるんでしょうか?


中島 (九州戯曲賞最終選考に残った)前作『BERLIN』の話から始まるんですけど、審査員の方から “大人数を描くのは技量がいるから少ない人数から始めてみたらいいんじゃないか“という話が出て。次に何か賞に出すような時には少ない人数で描こう、と思っていました。でも、実際に少ない人数で描こうとしたら濃い内容でないと描けない。それで、必然的に自分に近いところを描くということになったんです。でも、そうして書きあがった『モルヒネ』をいろんな戯曲賞に出してみたけど1次選考にも引っかからない状態が続いてしまって。この本は結構独白もしているし、賞にも引っかからないしどうしていいのかわからないという感じだったんですけど、ちょうど日本劇作家協会九州支部が月いちリーディング応募作の戯曲の講評を始めた時期だったので送ってみたら結構褒めてもらえて。それならばと九州戯曲賞に出してみたら、大賞をいただいて。

九州戯曲賞は大賞を取ったら一定期間戯曲が公表されるから、私と同じように苦しんでいる人とか私みたいな人が周りにいて困っている人とかに届くかなという想いもありました。せっかく賞も取ったし上演したいな、と。


富田 前作『BERLIN』が九州戯曲賞の最終選考に残った時期に、戯曲を読む会を1度開催したことがあるんですよ。演出家の黒澤世莉さんという方が監修して、オンラインでいろんな俳優さんを呼んで。その時に黒澤さんも、福岡に中島栄子という作家がいるということはちゃんと出していった方がいいみたいな話をしてたんですよね。私も、いい作品を描かれているのに上演されていないのは勿体無いなという思いが以前からあって。それで2人でお茶をしたときに、まだ予定は決まってないよということだったから、まずは考えるだけ考えてみます?というところから転がりだしました笑


木村佳南子氏(以下、木村) その読む会には参加してたの?


富田 してた。呼ばれて。


中島 自分が知ってる役者さんで、読んでほしい方に声をかけたんですよね。『BERLIN』は出演者が20人くらいいる戯曲で。


木村 J-ONEの人たちを出すための戯曲だったから人数が多い?


中島 そうそう!アクションとかもあるし、当て書きもしてたから。


富田 中島さん自体は結構作品自体は書いてきたのよね?


中島 んー。でも過去に1回小説を書くユニットで15分くらいの短編を上演した以外は世に出ていないし、基本的には自分で勝手に書いて上演せずに終わる、みたいな感じだったかな。


木村 ネタ帳的に溜まっているものはあるけど戯曲として完本したのはその短編と『BERLIN』と『モルヒネ』の3本ってこと?


中島 最後まで書いているものは他にも何本かあるけど、ちゃんと世に出ているのは3本かな。


富田 それで、じゃあどなたにお願いしましょうか、という話になるじゃないですか。その時に面白かったのが、作中に『お母さん』という存在が出てくるんだけど、(戯曲を読んだ)何人かの方にこのお母さんの話いらないんじゃないか、と言われたらしいんです。そしてそれが、いずれも男性だったと。いや、このお母さんの話いるでしょ。と言ったのは女性の比率が高かった。私も、このお母さんの話はいるよなーと思っていたから中島さんと2人で話をしている時に自然と、女性の演出家がいいよねと。


中島 男性の演出家だとちょっと意図が変わってくるかもしれない、と。


富田 もちろんそんなことはないのかもしれないけれど、この意見が出たことは演出家を決めるのには大きかったかな。それで、女性演出家。九州の女性演出家で誰がいいかな、という話になって。


中島 戯曲賞の講評の時に、オーソドックスな昔からの形でその部分の技術が足りないね、ということを結構言われたんですよね。その部分を演出でカバーできる人がよかった。


木村 構成の部分のことかな。


中島 (所属している)J-ONEが昔ながらの、人が出てきてサスが当たって喋り出す、という感じだから・・・。


富田 それが戯曲のト書で書いてあるもんね笑


中島 そう。それが懸念材料でした。選評される時にそれがだいぶ懸念材料になっていたらしくて笑


富田 私と中島さんが知るところの、いろんな女性演出家さんを並べたんですよ。九州の方がいいよね~、と。


中島 あのね、軽やかさ。モルヒネって、シリアスにやろうと思えばどこまでもシリアスにやれちゃう。そうなると“ダダーン!”って運命みたいになっちゃうから、もうちょっと軽さをわかってくれて出せる人がいいな、と。それで、木村さんがいいんじゃない?っていう話をしましたね。


富田 中島さん、木村さんが演出した作品を一回だけ観たことがあったらしくて。その時は、木村さんが演出なんだと思って観てはなかったそうで、もう一度ちゃんと観ておこうか、ということで『木曾の最期』を観に行って。拝見したら、まあ、お気に召しまして。


木村 なるほどー。


中島 惚れ込んじゃって。もう、好き!ってなって。お願いしたいっ!!てなりまして。


富田 じゃ、お願いしよう!って笑


なんかほんとドラクエみたいだったですね。(中島)』


◆そこでこの3人が揃ったわけですね。

木村 私が加わったのは話が転がりだしてからだいぶあとだよね。


富田 1年まではないけど、半年くらいかな。


中島 それからようやく、資金のこととか時期のこととか話し出す感じだったかな。


◆作品を創るところが中心になって動いているのは新鮮ですよね。きっと、すごくきちっと組み立てていったわけではなくて、これをやるにあたってこれがいる、あれがいる、っていう形で模索しながら今の形が出来上がっていったんじゃないかなと思いますけど、戯曲から生まれて転がっていく感じが作り方として面白いですよね。


木村 なんか映画っぽい?笑


中島 なんかほんとドラクエみたいだったですね。なんか地図があっていろんな能力のある勇者が集まってきた、みたいな。


一同 笑


中島 私が途方に暮れていたのを助けてもらった、みたいな感じです。途方に暮れて、日本劇作家協会九州支部に戯曲を送って、褒めてもらって、それならばと九州戯曲賞に出して、大賞頂いて、途方に暮れて、仲間を増やして、見つけて、みたいな笑

ここにくるまでに2年くらいかかって紆余曲折もあったけど、そういう順番で来たから本当に思い描いたものがちゃんとずれずに伝わるキャストさんとか演出家さんとかスタッフさんとかが集まったのかな、と思います。


木村 笑)いや、まだわからないからね。創作の途中だし 笑


中島 1回目の稽古の時に、これはもうお任せで全然大丈夫だ、と思って。私はもう楽しむだけ、みたいな気持ちでいます。


『“私と作品の距離と”“作品とお客さんの距離と“っていう、距離探しみたいなことがすごく難しい。(木村)』


◆こうやって書いた本人が近くにいて、作品への想いを感じながら作品を創るっていうのはどうですか?


木村 珍しいパターンだよね。劇作家が稽古場にいて、というパターンは劇団の稽古場でもやっているはずなのにそれとは違う想いを感じるんです。『モルヒネ』は圧倒的に事実というか、体験談じゃないですか。お話しいただいた時にその戯曲が立ち上がっていった下敷きみたいな話も聞いたりもしていたし。それで実際に読んだら、一応セリフとしてかかれてはいるけど、多分本当にこういう会話があったんだろうなとか。生活は続いていってるわけだから、こういう問題が引き続き今も続いていってるんだろうなっていうのがリアルに浮かんでくる。あまりにも戯曲が書かれた時と現在が近いんですよね。お話をいただいてから1年半くらいですけど、すごくよぎるんですよ。モルヒネどうしようかな、本当にやるのか、とか。どうしたらいいんだろうとか。

それで、なんでこんなに緊張するんだろう、なんかこういう感じに近い感覚になったこと過去にあったかなと考えた時に、前に非売れ(非・売れ線系ビーナス)で、沖縄基地がもしも福岡にあったらっていう設定で描いた、『そう遠くない』っていう作品を思い出して。私には沖縄で実際に基地を目の前にして暮らしている人の葛藤が本質的なところがわからないんですよね。めちゃくちゃ調べたりとか当時の歴史とか読んだりしたんですけど、なんかやっぱり当事者じゃないとわからないことがある。でも、沖縄基地のことは地続きでずーっと変化しながら起きていて、一方で、基地ができたのが私からすれば遠い昔っていう物理的な時間経過と距離が緊張はするけど冷静さみたいなものも自分の中で整理できた部分があって。『モルヒネ』はそういう意味では目の前に書いた人がいて、その人がいまだにそれを抱えながらというか、自分の荷物として一種持った状態で生活していってるっていうそのナウな状態をやる難しさがある。それに私も呑まれちゃうと、冷静さがなくなっちゃうし。

こういうのは初めてかもなーと思っています。

作品そのものにおいては、家族のあれこれとかは誰しも何かしら持ってるから普通にみてもらったら、あーあるある!みたいな。親戚のなになにさん家みたいって思ってもらえるんじゃないかなと思うんです。でも、お客さんも一種“くらう”から。そのお客さんが感じる“くらう”塩梅をどう調節するかみたいなところ。“私と作品の距離と”“作品とお客さんの距離と“っていう、距離探しみたいなことがすごく難しい。


中島 確かに。この作品は泣きながら書いていたし、今でもちょっとテンションおかしい時に読むと泣いちゃうんですよね。


木村 魂乗って書いたんだなっていうのがわかるんですよね。だから正直、魂乗りすぎちゃって文章としてとか、戯曲の技術の部分っていうのは崩れちゃっているところもあるんだけど、それを度外視してもかけちゃってる。言いたいこととか話したいことを全て剥き出しているからだと思うんですよね。となると、その書き上がったものってもう一種出来上がっている。これにどう手を出すか、みたいな 笑


中島 この作品は思いっきり想像で書いた部分とそうじゃない部分が混ざっていて、正直リアリティとのバランスはあまり良くない作品だなと思っているんですけど、でもその部分とかの調整を木村さんがしてくれていてありがたいです。


◆戯曲から作品として演出するときに葛藤しながらもとても丁寧に作られているんだなと感じます。込められた魂を残しつつ、ちょっとあたりが軽やかにというか、見ててちょっと笑えるというか。戯曲そのものと立ち上がって作品として見るものの違いがすごくありますよね。もちろん作品を観て泣く人もいるとは思うんだけどそれは一人で戯曲を読んで泣くのとはやっぱり違う。創作を共に進めているキャストの皆さんについてもお聞きしたいです。


中島 とぼけた味を持った土佐さんが見つかったのはすごく大きいなと思っています。


木村 土佐さんに声をかけたのは富田さん経由かな。


中島 このとぼけた感じを出せる人って他にいないと思う。土佐さんってチャーミングですよね。チャーミングで品があってとぼけた感じがあって。仲さんは、うちのお母さんとは全然違うけど、稽古をみてたら仲さんのお母さんとしての愛情にいつも泣きそうになります。でもそれを木村さんがいい塩梅に調整していて。


木村 笑


中島 富田さんは最初に脚本を読んでもらった時に、貴実子そのものだ!と。すごくびっくりしました。


富田 私、最初にこの話を振った時は、全く出演する気なかったんですよ。私以外の方でキャスティングの話をめっちゃしていて。中島さんと2人でいっぱい色んな方を挙げていったんです。あらかた出し終わって、じゃあこの中から選びましょう、というタイミングになって、中島さんがおずおずと笑


中島 富田さんがいいな、って本当は最初から思っていたんけど、、、


富田 富田さんはそもそもやってもらえないんですかって言われて笑


中島 本当はずっと言いたかったけどプロデュースに専念しようかな、みたいな雰囲気だったから言えなくて。これで役者まで背負わせてしまったら、富田さんの仕事量が・・・と思ってたけど、結局我慢できず。


富田 もちろん、役者としてはとてもありがたい話ですよね。それで、私でよろしければ、みたいな流れで。なんですけど、やっぱりめっちゃプレッシャーですよ。本人が目の前にいるから笑


中島 戯曲を実際に人が演っていくとどうしてもずれって出てくるじゃないですか。違う人間だから。でも最初の頃に黒澤さんと富田さんと3人でちょっと読み合いをした時に、私が思っていた貴実子がそのまましゅっとそこに居て。すごい奇跡だなぁ、こんなことあるのね~と思っていたので。そして“おばちゃん”役の峰尾さん。感情の持って行き方とかが、さすがですよね。


富田 峰尾さんは木村さんと私で話をしてたんですよね。主に私が、この人は?この人は?みたいに挙げていく中で


木村 峰尾さんとは以前ご一緒したこともあって、峰尾さんのおばさんは面白そうだなーと思って。でもなんかお母さんでもいいかもね、なんて話もしてたね。

けど、お母さんはそれこそ“とみぃさんぷれぜんつ”『IN HER FORTIES』に出演していた仲さんの、その時の雰囲気がすごく素敵だなーっていう印象があったので、お母さんは仲さんどうかな、と。珍しく仲さんだけは私が決めました。


富田 そうそう。でも仲さんと私は年齢近いですが?大丈夫ですか?っていう笑


中島 私が書いたイメージでは、おばちゃんも今より10くらいは上のイメージだったんですよね。でも峰尾さんの、あの振り回されてきました感溢れる芝居を見たときにさすがだなと思って。


木村 まあ役者さんってね。年齢はあまり気にしなくても大丈夫かな、と。親子に見えてますか?仲さんと富田さん。


中島 見えてる見えてる!


後編へ続く
▶続く後編はこちら

『稽古場での創作のあれこれについて』 https://amcf.amebaownd.com/posts/55890520

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morphine Plan #01 『モルヒネ』

脚本:中島栄子(アクションチーム jーONE)

演出:木村佳南子(非・売れ線系ビーナス)

母が重病になった。

ストレスで発症する病気だそうだ。

ストレスの原因は十中八九、発達障害の父だろう。

貴実子はそう思っている。

いよいよ母の死が近づいてきた。

そんな母と葬式の準備をする。

守られたかった人間が守られないままに、それでも生きていく姿をユーモアを交え描いた第10回九州戯曲賞大賞作品。ついに上演。

公演詳細・ご予約はこちらから▶https://note.com/morphine_plan/n/nb52f351692ce

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