【第695回】林本大(能楽師シテ方観世流/大の会代表)

「舞(まい)」と「踊り(おどり)」は違います。少なくとも私達能楽師はそう思っています。


劇中に歌や舞踊が入るものを「歌舞劇」と呼んでいます。皆さんになじみが深いのはミュージカルでしょう。歌(音楽)やダンスで登場人物の喜怒哀楽などを表現します。悲しい場面では、役者が様々な「泣く」を、舞台で表現します。「喜び」ではスキップしたり軽快な歌を歌ったり。「怒り」の場面では声を震わせ体を震わせ、眉間に精一杯しわを寄せて机を叩きます。

それらは、「泣く」という表現をどれだけリアルに舞台で表現できるかが問われます。役者はこれまでの自分の人生の中で見てきた、そして経験した「泣く」を体現しようとします。つまり、「泣くという動作を、できるだけ100パーセント演じられるか」が問われるわけです。本当に涙が流せる役者がいたなら、おそらく喝采でしょう。

同じく歌舞劇である「能」の泣くという動作は、指を伸ばした手を、手の平を上に向けて目のあたりに近付け、僅かに顔を下に向けるだけ。「シオリ」という所作です。勿論涙は流しませんし、口をゆがめる事もありません。この所作をもし日常生活の中でしても、それが泣いているとは誰も想像できないと思います。つまり、とても「真に迫った演技」とはいえないのです。


世阿弥の言葉に「心十分動 体七分動」があります。

「シオリ」をしている能役者は、体の中つまり心では、役柄やストーリーと同化して溶け込み、十分に泣いているのです。しかしそれを100パーセントお客様に向かって演じるのでなく、70パーセントに留める。つまりリアルにならないように心がけています。


感情を外に向かって、お客様に向かって放出するのが「踊り」。そうではなく感情を体の中に向けていくのが「舞」である。この事は能以外のジャンルの古典芸能の方もそのように話しておられました。


体の中に押しとどめることを、我々は「籠める」といいます。鳥の籠のように閉じ込める。でもその心の様が何らかの形で外に漏れていく。それを察知した他の演者がそれに応じて自分の演技なり演奏にその影響を与えていく。そうして舞台全体がひとつのうねりを作って動き始めます。


私の活動の中に「能meets殺陣」という、皆様に能のチャンバラを体験していただくというワークショップがあります。何度か稽古をし、最後は発表会を行うのですが、一般の皆様と戦うのは、プロの能楽師。何度か稽古をするので、その所作は勿論分かった上で舞台に臨むのですが、その参加者の感想で多いのは、「本当に斬られるかと思った」と。能のチャンバラも、本当に刀を合わせるわけではありません。時代劇のように歯を食いしばり額に血管を浮かべて、斬られたら苦しみながら舞台から消えていく・・・こともしません。あくまで形式的な所作なのですが、舞台上には見えない「気」が立ち込めるのです。それは、一般の参加者の皆様でも容易に感じ取ることができます。

外に出さないからこそ、体内に「籠める」からこそ、外に漏れ出ていくもの。それで能は表現している。まさしく「舞」なのです。そしてこの事は、昨今「個性を出す」ことが良しとされる社会とは真逆なのかもしれません。しかし私はこう思います。「個性」とは出すものではなく、秘めていても「漏れ出る」もの、それこそが「個性」ではないかと。皆様はどうお感じになられるでしょうか。

「能meets博多」では、このような、現代の日本人にも響く能のエッセンスをいつもお話しています。能のセリフは難しいですし、その所作も難しい。「難しい」その向こうに何があるのか。それをいつもお話します。是非一度気軽に足をお運びください。

能meets博多 

能楽師シテ方観世流 林本大による

わかりにくいからこそ面白い能の

わかりやすく「濃密」な講座

こちらから「会いに行く」をモットーに全国展開!


日時 

2023年10月8日(日)

①12時45分~囃子のお話

②14時45分~夜討曽我一曲解説


12時45分~囃子のお話

能のオーケストラである囃子。

四つの楽器の基礎知識から指揮者がいないその驚きの演奏方法までお話させていただきます。「コミ」と呼ばれる大切な要素。

とても興味深く、お能の魅力にふれていただけます!


14時45分~夜討曽我一曲解説

「まるで今その曲を鑑賞しているような不思議な感覚」

曲解説は実演も交えて一曲を解説する人気講座です。

お能の基本的な約束事や、見方なども含めてあらすじをおはなしさせていただきます。

11月3日(大槻能楽堂)能meets能「夜討曽我 十番斬」の事前講座です。大阪にお越し頂けると嬉しいですが…オンライン配信も予定しております!(11月下旬~12月下旬)

是非ともシテ自らの事前解説と、配信公演でお楽しみくださいませ。


会場 

リファレンスキャナルシティ博多会議室

(福岡市博多区住吉1-2-25 キャナルシティ博多ビジネスセンタービル地下一階)


料金 

各2,000円(当日清算)


受付・入場

各回 15分前

※講座に必要な持ち物や服装はございません。


予約方法

WEB予約 https://www.quartet-online.net/ticket/hakata05

メール予約 noh_dai05@yahoo.co.jp

件名「博多予約」とし、お名前・電話・希望講座・枚数をお送りください。


お問合せ

noh_dai05@yahoo.co.jp

大の会オフィシャルサイト

https://dainokai.com/


主催

大の会


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