【第670回】上野隆樹(M.M.S.T 「R/Z」テクニカル/Mr.daydreamer)

 今回のMMST『R/Z』のクリエイションに参加している、上野隆樹と申します。今作は韓国の俳優4名と共に、劇場で共同生活を送りながら創作されています。


 『ロベルト・ズッコ』の著者であるべルナール=マリー・コルテスは、1948年に生まれたフランス人作家であり、戦後の共産主義革命の動乱の中を生きた作家であると言えるでしょう(彼自身74年に共産党に入党しています)。


 戦後処理における国家への不信が世の中に蔓延し、戦中のナショナリズムの高揚から高まっていた国家への信頼が一挙に崩壊したことは、アイデンティティの問題へと直結しました。同時期に活躍し、実存主義を唱えた作家・哲学者のサルトルが「実存主義はヒューマニズムだ」と述べ、自己へふりかかる運命さえも自己意思によって決定されると考えたように、この時代は自己とは何か?という問いのもと、自己を独立した存在者として考えざるをえない時代だったのでしょう。


 自己を確立するということは、同時に「他者」との境界線をハッキリさせるということでもあります。戦時中の自己は国家という共同体に帰属し、運命を共にするために「自己≒他者』という関係を要求されます。それが終戦と共に失われることで、不安定な自己だけが浮遊し、それは不安や恐怖に結びついたことでしょう。それがどのような形で表出したのかが、この時期の思想や活動、事件、そして表現物に繋がったのだと考えています。


 さて、今作『R/Z』は他者論として『ロベルト・ズッコ』を捉え直すという試みです。コルテスの生きた時代から現在に至るまで、先に述べたような問題は解決したでしょうか?むしろ、状況は悪化しているようにさえ思えます。グローバル化が進み国家間の人々の行き来が活発化したことで民族という概念は形骸化し、それゆえに国家は行政サービスの名詞としての働きに集約化しました。その中で突如として起こったコロナ禍における分断と、ウクライナ情勢をはじめとした混乱。我々は、戦後以上に混沌とした「奇妙なナショナリズム」とも言える時代に生きているのでしょう。アイデンティティの確立だけでなく、その上での集団形成の在り方までも求められているのです。


 ここで改めて「自ー他者」の関係を考え直すことは、非常に意義のあることだと思います。それも国家を超えた交流・共同を通しての創作であることが重要なのです。今作が、何らかの糸口になりうることを期待しています。


M.M.S.T 「R/Z」テクニカル 上野隆樹(Mr.daydreamer)

M.M.S.T Performance 2023

[R/Z]ロベルト・ズッコ


原作:ベルナール=マリー・コルテス

構成・演出:百瀬友秀

出演:Kim inha、Park junsoo、Jeong jis、Jo han-byeol

※日本語字幕有り。


日時

2023年

3月4日(土)17:00開演

3月5日(日)17:00開演


会場

 CAMIF

831-0028

福岡県大川市郷原630-5

※西鉄柳川駅から会場まで専用バス(無料)有り。

※会場には、お客様用駐車スペースがございません。


<会場までのご案内>

西鉄柳川駅より、送迎車にて会場までご案内します。

16:40分までに、西鉄柳川駅「東口」ロータリー 市営駐車場周辺にご集合ください。

当日券をご希望の場合も、上記時間までにご集合ください。


チケット

3,500円(前売り)/ 3,800円(当日)

チケット申し込み

オンラインチケットサービス


問合せ

M.M.S.T OFFICE

TEL:092-836-7008

MAIL:contact@mmst.net


特設HP:https://mmst.net/rz23/

団体HP:https://mmst.net/


フランスの劇作家べルナール=マリー・コルテスによって1988年に書かれた「ロベルトズッコ」は、実在した連続殺人犯をモデルに書かれた彼の遺作です。本作はこのテキストを「他者論」として捉えて構成したパフォーマンス作品です。M.M.S.Tとしては2004年に初演になりますが、現代の世界状況を踏まえた新たな「他者論」を考える為、約17年ぶりに再構成して上演したいと思います。

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