【第537回】村川拓也(演出家・映像作家)(プロフィール画像Photo by Guoqing Jiang)

演出家の村川拓也です。今年の「キビるフェス2020」で高齢者の介護福祉施設の現場を題材にした演劇作品を上演します。本番は、2月22日(土)〜2月24日(月・祝)です。会場はパピオビールム大練習室です。チケットの売れ行きがあまり良くないらしいのですが、是非福岡の皆さんに観ていただきたいと思っていますので、来て下さい。下に書いたのは、今回の作品を作りはじめたころに考えていたことです。

介護の現場に関わらず、現在日本では外国人労働者の受け入が、少しずつではありますが、制度化され始まっています。最近、この制度自体があらゆる方面で問題視されている状況ではあります。過酷な労働状況があったり、逃げ出す方がいたり、使い捨てのように働かされている方々がまだまだたくさんいると聞きます。こういった問題にも触れつつ、しかし私はもうすこし現場的な部分で、外国人労働者について考えてみたいと思っています。制度や労働環境や権利が改善されたとしても、それは受け入れる側の日本人の意識が変わらないとまったく意味がないと思うからです。私がリサーチの過程で出会った、すでに外国人を受け入れている高齢者介護施設の施設長さんにお話を聞いたのですが、そのときにすごく印象に残った話がありますので以下に書かせていただきます。

はじめて外国人労働者を受け入れる際に、ものすごく不安があった。その不安というのは、彼ら彼女らがはたして日本になじむことができるのかという不安だった。利用者の方々に対しても、日本人のように対応できるのかという不安があった。しかし、実際、彼ら彼女らが働きはじめて、まったく想像していなかったことにはじめて気づくことができた。

それは、彼ら彼女らに日本人のようになってもらったり、日本人化させるのではなく、受け入れる私たち自身が変化しないといけない、ということだった。外から来るものに対して、反発したり、同化を要求するのではなく、私たちも一緒になって変っていかなければならない。そして、今、それができてしまった。すごく簡単なことだった。

この話を聞いて私はすごく納得したし、介護の現場に関わらず、今後必ず増えるであろう外国人労働者に対して、その受け入れ方、その時の心構えに必ず必要なことだと思いました。ある種、理想的な考え方だし、もちろん現場によって、または地域によって、簡単にできるようなことではないとは思います。でも、その施設長さんが言った、「彼ら彼女らと一緒に変るんだ」という言葉に、私は現場の人間の強い意思を感じましたし、変化することの中になにかものすごく面白いものがあるのではないかと感じました。その過程にはいろいろな感情の葛藤があると思います。そういった感情を乗り越えて、「変わる」ことを受け入れること。私たちが暮らすこの場所は、固定化された動かしようのないものとして考えないこと。そういうことについて考えながら作品制作に挑みたいと思っています。また、この作品を観る人たちにそのことが伝わると良いなと思っています。私は基本的に同じことをやるのにあまり飽きないし、楽しむことができるのですが、今回の制作では、作品をつくること自体の「変化」を積極的に受け入れていく準備も必要なのではないかと考えています。

(完)

2020.01.17

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