【第598回】木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎 主宰)/木ノ下歌舞伎 「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」

(撮影:東直子)



『義経千本桜』の「二段目 渡海屋・大物浦」は、源平の合戦で滅んだはずの平家、その大将であった平知盛が“実は生きていて”、宿敵である源義経と出会ったら、何を語るだろうか……そんな奇抜な江戸的想像力によって書かれた名作浄瑠璃です。これを現代にアップデートしたものが木ノ下歌舞伎の今作なのですが、稽古や上演を重ねながら、つねに「物語の力」について考えていたように思います。

たとえば、東京五輪(オリンピック・パラリンピック)。もちろん、そこに集うはずのアスリートたちには最大の敬意を抱きつつも、この状況下で開催されようとしていることについて、私たちはどうしても「シラケた」ものを感じてしまう。それは、五輪を実現するための物語(ロジック)に納得しかねるからかもしれません(そもそも「復興五輪」と言ってなかったっけ?とか)。また、政府の語る安心安全の物語も至極頼りなく響きます。リアルな物語がことごとく不全状態にある今、私たちに必要なのは、虚構だとわかっていても、つい信じたくなるような物語、声なき声(そこには死者の声も含まれます)を掬いとるような、やさしい、けれど現代(いま)を突き刺すような物語なのかもしれません。滅びた平家、都落ちする義経……“大文字の歴史”からこぼれ落ちていった人々の声を丁寧に掬い取りながら、『義経千本桜―渡海屋・大物浦―』を上演したいなと思っています。現代を映し出してこその古典、真実を焙り出してこその虚構です。彼らの声が、私たちの“現在地”を鮮やかに示してくれると信じて。


2021.6.17

木ノ下歌舞伎
「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」

終わりなき戦いのなか、甦る幽霊の声──
今が昔に、昔が今に 現代を抉る〈逆襲劇〉復活。

久留米公演
2021年7月1日[木]18:30

久留米シティプラザ 久留米座

作|竹田出雲・三好松洛・並木千柳
監修・補綴|木ノ下裕一
演出|多田淳之介[東京デスロック]
出演|
佐藤誠 大川潤子 立蔵葉子
夏目慎也 武谷公雄 佐山和泉 山本雅幸
三島景太 大石将弘

チケット|全席指定
     一般:3,500円
     U25(25歳以下):2,500円
     高校生以下:1,000円

《チケット取扱》
久留米シティプラザ
オンライン:Web(要事前会員登録)
窓口(営業時間 10:00~19:00 臨時休館あり)

カンフェティ
[電話] 0120-240-540(平日10:00~18:00)
[WEB] http://confetti-web.com/tokaiya2021

《公式HP》
https://kinoshita-kabuki.org/tokaiya2021

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