9月2日・3日に久留米シティプラザで『イミグレ怪談』を上演するので、僕の体験した怪奇な体験についてなど書いてみようと思ったが、残念ながら(?)僕にはあまりそういう体験がなかった。
この作品をつくるきっかけは、幽霊や妖怪という「その土地」に根付くと思われる存在が、もしも遠い土地に移住したらどうなるのか? と考えたことだった。
たとえばゾンビはこのところ世界を席巻しているようにも思えるが、あれって土葬文化でないと出てこないイメージだよな、などと、いつかウォーキングデッドを見ながら漠然と考えていた。99パーセント以上が火葬されるというこの国で、ゾンビが出現するチャンスは、大規模な災害などが起きて火葬が間に合わないような状況ではない限り、なかなかないのではないか(でも昭和初期くらいまでは日本でも火葬が主流だったらしいから、昔はゾンビが生まれやすかったのかなとも思った)。
一方で、我が国では先祖崇拝も影響しているのか、死者が霊となって、誰かやどこかに憑くというイメージはけっこう一般的だと思う。
僕の父方の祖母は沖縄出身で今年95歳になった。数年前、僕の父親が急死して祖母を訪ねたとき、僕は祖母の長男(父親)の長男ということもあって、祖母が守ってきた(祖父もかなり前に亡くなっている)先祖の位牌を受け継ぐことになった。とはいえ、僕は沖縄育ちではないし宗教的な人間でもないので、位牌の扱いに困り、祖母には内緒で、その先祖たちをパスポートケースに入れて海外に行くときに持ち歩くことにした。一種のお守りのようにもなっている。宗教的な人間ではないと言ったものの、そうやってお守りのように扱えている時点で、僕にも、死者が憑く=見守るという感覚があることがわかる。
というわけで、死者のことや幽霊のことを考えることは、宗教や文化を考えることに直結する。その存在に畏敬の意を持って、あるいはおもしろおかしく、時に不謹慎に考えることも可能だ。どういう態度であれ、死者の視点を想像することは、僕たちが生きる社会を見つめ意見を交換するときに、かなり重要なんじゃないかと思う。
また、現在の日本には残念ながら、もしかすると幽霊のように、あるいは幽霊よりももっと、いないかのようにされている人たちがいる。それがどんな人たちかはあえてここでは触れないが、その人たちのことをいつまでもいないように扱う態度が、この社会の未来をよくするようには僕には思えない。
なんだかよくわからないままこの作品の台本を書いていたが、自分には見えない人見えづらい人なんだかよくわからない人を、わからないからと言って、ないものとしないようにしたいという思いはずっとあった。
神里雄大(岡崎藝術座)
1982年生まれ。劇作家、舞台演出家。越境する人や文化をテーマに、自身の経験も交えた作品を創作する。2006年、『しっぽをつかまれた欲望』(作:パブロ・ピカソ)で利賀演出家コンクール最優秀演出家賞受賞。2018年、『バルパライソの長い坂をくだる話』で第62回岸田國士戯曲賞受賞。国内外の舞台芸術フェスティバルへ招聘多数。平成28年度文化庁新進芸術家海外研修員として2016年10月から2017年8月までアルゼンチン・ブエノスアイレスに滞在。著書に戯曲集『バルパライソの長い坂をくだる話』(2018年、白水社)、『越えていく人——南米、日系の若者たちをたずねて』(2021年、亜紀書房)。公益財団法人セゾン文化財団2023年度セゾン・フェローII。
神里雄大/岡崎藝術座『イミグレ怪談』
「知る/みる/考える 私たちの劇場シリーズ」 vol.3
開催日時・場所
2023年9月2日(土) 〜 2023年9月3日(日)
久留米シティプラザ
Cボックス
日程
9月2日(土) 17:00 開演(16:30 開場)★
9月3日(日) 13:30 開演(13:00 開場)☆
< 上演時間:100分間予定 >
< 上演言語:日本語(英語・スペイン語字幕あり)>
★9月2日(土)の終演後、アフタートークを開催
お客さまの感想や意見をもとに、多様なものの見方を共有します。(20分間程度)
進行:長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)
☆9月3日(日)の終演後、シアターカフェを開催
作品を鑑賞して思ったこと、考えたことをシェアします。
詳細・申込方法はこちら
料金 【全席自由/税込】
一般:3,500円 U25(25歳以下):2,000円 高校生以下:1,000円
※U25および高校生以下チケットは入場時要証明書提示。
※未就学児のご入場はご遠慮ください。
※託児サービス有、詳細はこちら(定員有/無料/要事前予約 TEL 0942-36-3000)
※車椅子でご来場の方は事前に久留米シティプラザまでお問い合わせください。
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■久留米シティプラザ
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窓口 ※営業時間 10:00~19:00 臨時休館あり
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スタッフ・キャスト
作・演出:神里雄大
出演:上門みき、大村わたる、ビアトリス・サノ、松井周
舞台監督:大久保歩(KWAT)
舞台美術:dot architects
照明:高田政義(RYU)、上田剛(RYU)
音響:西川文章、吉田涼
衣裳:大野知英
映像:嶋田好孝、福岡想
英語字幕翻訳:オガワアヤ
スペイン語語字幕翻訳:ヤスキン・メルチー
字幕制作:河合有澤京花、神里雄大
宣伝美術:bankto LLC.
制作:武田知也(bench)、平野春菜
あらすじ
同窓会があるからと集った3人。焼酎のルーツを求めてタイに渡り、そこで出会った女に魅せられた話をする者、遠くの地に移住した人たちの物語を話す者、沖縄の幽霊に幽霊のことを語り出す者。酒、年金、お祭り、戦争、未来、死、バーベキュー、前世、話は多岐に渡り…どうも3人の会話は噛み合わない。それどころか、どうやらお互いに見えているのか、見えていないのかさえ怪しい。
頭上に輝くのは満天の星空か爆弾の光か―――、彼らの語りから見えてくるものとは?
神里雄大/岡崎藝術座『イミグレ怪談』(2022年 那覇文化芸術劇場なはーと 小劇場) 撮影:大城亘
お問合せ
久留米シティプラザ(久留米市)
TEL 0942-36-3000(代)
FAX 0942-36-3087
HP https://kurumecityplaza.jp/
製作 岡崎藝術座
共同製作 那覇文化芸術劇場なはーと
企画制作 一般社団法人ベンチ
主催 久留米シティプラザ(久留米市)
助成 令和5年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
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